祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

立場は客人ではなく飼い猫

「初めまして、リラさま。陛下より、リラさまの身の回りのお世話役を拝命しました、アドルフィーネと申します。フィーネとお呼びくださいね」

 朝から自分の元に現れたひとりの女性の存在にリラは動揺を隠し切れなかった。

 自分とたいして年も変わらないであろう若さの娘が恭しく頭を下げてくる。赤茶色の髪を両サイドで編みこみ、やや日に焼けた肌にアーモンド色の瞳は彼女の快活さを表していた。

「あの、お世話なんて必要ありませんから」

 手始めに部屋のカーテンを開けていくフィーネにリラはベッドの上で上半身を起こしながら躊躇いつつ告げた。しかし、そんな発言をフィーネはものともしない。

「なにを仰います。リラさまは、まだ安静にしておかないといけないお体ですよ」

「でも、そんなお世話をしていただくような立場では……」

「リラさま!」

 強く名前を呼ばれ、カーテンを開けきったフィーネが厳しい顔でベッドまで歩み寄ってくる。リラは窓から入ってくる日の明るさに目を眇(すが)めた。そして、ちょうどフィーネが影になってくれたところで、その口が動く。

「あなたは陛下の客人です。まだ混乱しているかもしれませんが、ご自分の立場をご理解ください」

 客人という言葉は、どう考えても間違えている。自分は王に人としてではなく、物として献上されたような存在だ。

 手酷い扱いを受けないのなら、それ以上のことは望まない。リラが反論しようとしたところで、それを許さないかのごとくフィーネが続けた。

「私に仕事をさせずに、陛下の命令に背かせるおつもりですか? そうなってしまっては、私みたいな使用人など……」

 わざとらしく俯いて泣きそうになっているフィーネにリラは慌てた。
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