祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「陛下、私は言いつけを守ります。もう勝手な真似もいたしません。ですから……」

 フィーネから王がどれぐらい忙しいのか、十分に聞いた。近隣諸国との関係を安定させるために謁見を繰り返して使者を送ったり、民の暮らしのための必要な設備を整えるための計画や、税の納め方の見直しなど、世継ぎの前に、睡眠の方を望まれているのではないか、と心配していた。

 だから、わざわざこの状況で自分の下に足を運ぶ必要はない。そんな思いで必死に告げていた言葉は、王の言葉にあっさりと遮られる。

「なにを勘違いしている? 私がお前のためにわざわざここに通っていると?」

 声が次第に近くなる。ヴィルヘルムは再びリラのそばまで歩み寄っていた。その言葉に、リラはなんだか自惚れていたみたいで顔が熱くなるのを感じた。

 王はきっと自分を見張るために、自分の一存でここに置くこと決めたために、単に見張りで来ているだけなのだろう。恥ずかしさもあり、なにも返すことができず視線を落としたままでいると

「ここに来ているのは私の意志だ。自分の飼い猫を好きに可愛がってなにが悪い」

 あまりにも意外な言葉にリラは顔を上げて目を見開いた。紫眼が大きく揺れ、その様子を満足げに見つめると、ヴィルヘルムはリラの部屋を後にした。

 相変わらず、王がなにを考えているのかリラにはまったく理解できない。この瞳に対する王の真意も分からない。

 ひとつだけ分かったのは、どうやらフィーネを自分の元につけてくれたのは、彼女の性格を見越してわざわざ指名したらしい。王の言う通り、リラにとってフィーネはあまり気を遣わなくてすみそうな相手だった。

 それを王の優しさだと素直に受け取る自分にリラはどこか困惑していた。それに最後の王の言葉――飼い猫とは自分のことなのだろうか。可愛がる、とはどういうことなのか。

 考えても答えなんて見つかるはずもない。なかなか眠れそうにないのは、きっと昼間に寝すぎたせいだけではない。リラはいつもより速い心臓の音を意識しないように、ベッドに潜り込んだ。
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