祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 これが戯れなのか、慰みなのか。こんな感情を抱いたのは初めてで、自分の中でどう折り合いをつけていいのかさえ分からない。

 リラの力は自分の中のなにかが、薄々と勘づかせていた。それをわざわざ危険だと分かっていても、あの場に連れて行ったのは、他でもない、家臣たちを納得させるためだ。

 リラの力のことを考えれば、自分にとって有益なのは明らかだ。それが分かったからクルトもリラをそばに置くこと自体は反対しなくなった。

 だが、ヴィルヘルムにとってリラの力はそんなに大事なことではない。自分のために生きてみろと言ったのは本心だ。でもそれ以上に、とにかくリラをそばに置いておきたい。なにをこんなに必死になっているのか。

「それにしても、幸か不幸か、彼女もとんだ巡り合わせですね。まさかこんなところに捕まっちゃうなんて」

 エルマーの呟きにヴィルヘルムは、ふと我に返る。自分は彼女を捕まえたのだろうか。思い巡らせ、やがて気が抜けたような微笑みをエルマーに向けた。

「いや。捕まったのはどうやら、こっちらしい」

 その発言にモノクルの向こうにある瞳が揺れる。クルトには聞かせられない文句だ。それも分かっての発言だったのだろう。だから、

「これは、これは。祓魔師陛下が捕まるなんて、やはり彼女は魔女だったようですね」

 エルマーは喉まででかかった言葉を必死の思いで飲み込み、いつものようにおどけた返事をして王に笑顔を向けたのだった。
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