祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
第三章

素直な独占欲

 石畳のでこぼこ道の両側には多くの露店が所狭しと並ぶ。色とりどりの果物や野菜はバランスよく積み上げられ、綺麗なグラデーションを作りあげていた。

 商人たちの活気づいた声が飛び交い、その声に誘われるようにして人々は時折、足を止めて目当てのものを購入する。迫る冬に備えて、買い込むため、市は多くの者たちで賑わっていた。

 その中でも、ひときわ人だかりができているのは、一見恐ろしく地味な店だ。そこで売られているのは海産物だった。内陸国であり、さらにその中心部となる王都では魚は滅多に手に入らない。

 しかし、こうしてたまに近隣諸国から保存用にと塩漬けされた魚がまとめて卸され、売りさばかれるのだ。値段も桁違いで、買えるのは上流家庭と一部の人間だけ。なので集まっている人間の大多数は興味本位の冷やかしだったりする。

 そこにひとりの少女が人波を掻き分け前へと顔を出した。周りの大人よりも、頭がいくつ分も低く、年は十くらい。

 背中に届くこげ茶色の髪は切り揃えておらず、あちこちに跳ねており、前髪も伸ばし放題でその瞳の色を窺うことも難しい。

 どこからどう見ても客には見えず、商人は彼女を無視した。しかし次の瞬間、商人だけではなく、周りの大人たちも彼女に注目することになる。少女は無言で腕をつきだし、その掌には金貨が何枚も乗せられていた。
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