エリート外科医の一途な求愛
手が届く距離
各務先生が執刀した移植手術成功が大きなニュースになってから、ウチの医局には方々からじゃんじゃん電話がかかってくるようになった。


そのほぼ全部が各務先生への仕事のオファー。
地方大学への出張講師とか、総合病院での手術技術指導とか、はたまた臓器移植ネットワークのドナー登録推進委員の打診とか……。
ウチの附属病院でのオペだって、一年以上順番を待ってる患者さんもいるのに、そんな依頼が尽きない。


とは言え無碍に出来る物でもなく、もちろん各務先生にお伺いしてからお返事しないといけない。
北海道の総合病院院長からの電話に丁重な応対をしてからPHSをホルダーに挿し込むと、私は両手を天井に突き上げて大きく伸びをした。
その時。


「ほら、仁科さん。サボってないで頼むよ、これも」


地味に皮肉混じりの声が頭上から落ちてきて、私は背後に立った木山先生の顔を顎先から逆さに見上げる羽目になった。
慌てて姿勢を正した私のデスクに、割と揃っていない紙の束が、バサッと音を立てて置かれる。
その量を見て、思わず溜め息が漏れてしまった。


「おいおい。各務先生のリスケ対応が忙しくて、俺の仕事は手伝えないとでも言うか?」


更に被せられる嫌味。
私は七分丈のシャツの袖を肘元まで捲り上げて、『いいえ』と答えた。


「ちゃんと進めてます。私、自慢じゃないけど、今朝からず~っとこれやってるんですよ」
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