君にまっすぐ
オルディと軽トラ
休み明けの仕事の日、孝俊と顔を合わせてどういう態度でいればよいかわからず、気が重いまま出社したが、予想に反し、孝俊は午前中に現れることはなかった。
あかりが出社する前に来たわけでもないらしく、車庫は空のままだ。

「森山田さん、お昼休憩ですか?」

事務所に戻ってきたあかりに田中が声をかける。

「ええ、ですが食欲がなくて、どうしようかと思っていたところです。」

「なんだかお疲れのようですし、なにかありましたか?」

「いえ、特に何も…。」

「武堂専務と。」

ハッと顔を上げ、あかりは田中を見る。

「一昨日の土曜日の夜、ビルの前で武堂専務が何やら女性と揉めていたとビル内でもっぱら噂です。」

あかりの顔が青ざめる。

「やはり、あなたでしたか。」

「あ、あの、申し訳ありません。」

慌てて頭を下げるあかりに、田中は優しく声をかける。

「どうしてあなたが謝るのです?噂されたからといって謝ることではないでしょう。まぁ、武堂専務は目立つ方ですからね。相手があなただとは広まっていないようですから、安心していいですよ。」

その言葉にどこか安心した様子のあかりだが言葉を続ける。。

「あのでも、私武堂専務にビンタしちゃって…。」

その言葉を聞いた途端、田中が虚を突かれたような顔になりあかりを見つめる。
いたたまれなくなったあかりは頭を下げて謝った。

「あの、本当に申し訳ありません。」



「は、はは、あははははは。」

下げた頭の上から聞こえてきたのは田中の笑い声だ。
あかりは慌てて頭を上げる。

「田中室長がそんなに笑ってる姿、初めて見ました…。」

「私もこんなに笑ったのは、何年ぶりでしょうか。」

そう言いながら、田中はまだ笑っている。

「坊っちゃんも森山田さんの前ではかたなしですね。」
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