君にまっすぐ
月曜日、孝俊と顔を合わせにくになと思ったまま、今か今かと覚悟していたが、結局その日孝俊が現れることはなかった。
そしてこの1週間1度も顔を合わせることはなく、日曜日の夜賢介とご飯を食べに行くことになった。



「その後、どうだ?」

「ん、1度も顔を合わせてないよ。」

「あれ?上司とか言ってなかったか?」

「上司みたいなものって言ったの。私はB.C.ビルディングのもつ不動産の管理を請け負うB.C.メンテナンスの社員。彼はビルディング側の人間だから。私の管理する駐車場を利用しているという関係だよ。」

「なるほどな。あかりの担当ということは上のクラスの人間ってことか。」

「そう、B.C.ビルディングの専務。」

「専務!?専務って御曹司か。」

「よく知ってるね?」

「メディアには出ないけど、御曹司が専務っていうのは有名だから。国内業務の大部分を請け負ってるのが専務っていう話だよな。」

「やっぱりそれなりに有名なんだ。」

「そりゃ天下のB.C.ビルディングの御曹司だからなー。でも、そんな人に告白されるなんて、あかりもやるな。」

「告白って。本気じゃないでしょ。」

「本当にそう思ってるのか?」

「…。」

「俺はあれは本気だと思ったなぁ。どうするんだ?」

「どうするもこうするもないでしょ。婚約者がいるんだから。」

「まぁねー。でもあかりの気持ちはどうなんだ?彼のこと好きなんじゃないのか?」

「なにそれ、好きなわけないでしょ。婚約者がいる人を好きになったりしないよ。」

「…、まぁ、あかりはそう言うよな。でも、こないだあの人も言ってたように気持ちは自由なんだよなー。」

「どういう意味?」

「ダメだと思っててもどうしても惹かれてしまう場合もある。ただ、そこで口に出すか出さないかは理性の問題かな。」

「…私は口に出してはいけないと思う。それで、傷つく人が出てくるのは耐えられない。だから、こないだあの人が口に出してしまったことが私は許せない。」

「…そっか。」

「賢介は私に彼を好きになってほしいの?」

「んーそうじゃなくて、あかりには正直に生きてほしいなって思っただけ。」

「私はいつも正直に生きてるよ?」

「そうだな。」

その後はいつもの様に当時のバカ話やサークル仲間の近況の話で盛り上がる。
次の日は2人共仕事だったので、食事だけで別れた。
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