日常に、ほんの少しの恋を添えて
「確かに顔はいいなーって思うけど、専務ってお菓子嫌いなんだよね。最初の方でそれを知っちゃって。そんでなんかもうこの人とは合わないなって」

 私がこういうと史華はがくん、と項垂れた。

「なんで……お菓子嫌いだって別にいいじゃない……あんたのそういうとこ不思議でならないわ」
「よくないよー!! 私子供のころからお菓子のある環境で育ってるから、それを否定されちゃうと家を否定されたみたいで無理! って思っちゃう。あ、もちろん人間的には嫌いじゃないよ。恋愛対象として見てないってだけで」
「もったいない。あんなイケメンのそばにいるのに。経理なんて女ばっかで、男は50オーバーの課長しかいないってのに……」

 不満げにぶつぶつ言いながら、史華は運ばれてきたトンカツにからしをぬっている。彼女が注文したのはヒレカツ御膳。そして私が注文したのはカツ丼。昼間っからこんな重たいもの頼んでしまう女二人。
 何となく食べたいなと注文したら、運ばれてきたかつ丼と味噌汁と御新香のセットのボリュームを見て激しく後悔した。

「志緒、あんた食べるわね……」
「な、なんか食べたくて頼んじゃったんだけど、全部食べられるかな……ていうか、そっちもじゃん」

 彼女の頼んだヒレカツ御膳だってなかなかのボリュームである。 
 史華も自分の目の前にある御膳と、私のカツ丼を見比べる。

「そうね……あんまり変わらないわね……帰り一駅分多く歩こうかな……」
「それがいいね……」

 まあ、いいや。こんなにお昼にがっつり食べるのはたまにだし。史華を見習って私も一駅分歩いて、夕飯は軽く済ませよう……
 だけど久しぶりに会う史華とのガールズトークに、しばらく花が咲き楽しいひと時を過ごした。

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