日常に、ほんの少しの恋を添えて
志緒、派手にやらかす

歓迎会兼送別会

 社に戻り自分の席でデータ入力作業に勤しむ。それを終え、今度は役員室や秘書室で使用する備品のチェックをしようと席を立つ私に、先輩社員の花島由紀さんが「ちょっといい?」と言って私を秘書室に隣接するミニキッチンに誘う。
 花島さんも見目麗しく、てきぱきと社長秘書をしている28歳の女性だ。新見さんが退社された後、この秘書室で室長に次ぐ位置にくるのは多分この人だと噂されている。

「皆の都合がついたから、遅くなっちゃって申し訳ないけど長谷川さんの歓迎会と新見さんの送別会やろうと思うの」
「えっ! あ、ありがとうございます……!」

 そんなものを開いてくれるのか、嬉しい。でも皆さん忙しそうだから、ちょっと恐縮。

「でね、新見さんなんだけど自分の送別会はやらなくていいって聞かないから、サプライズでやることにしたの。だから本人には専務主催の飲み会、ってことにしておいてね」
「はい。わかりました」

 自分の送別会はやらなくていいだなんて、新見さんらしいな。

「当日の食事代は専務が全部負担してくれるんだって! すごいわよね、湊専務」
「えっ、全額? 本当ですか」

 思いがけない情報に目を丸くして花島さんを見上げる。彼女は158センチの私より随分背が高いのだ。多分170近い。迫力ある美人だ。

「新見さんは自分に長くついてくれたからって。こういうとこ、専務いいわよね。顔だけじゃなくて心意気もイケメンっていうのかしら? いい人についてラッキーね、長谷川さん!」

 ぽん、と肩を叩かれ、「は、はい」と頷いた。
 専務、やるなあ。
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