エリート御曹司とお見合い恋愛!?
9.境界線を越えてみよう
「美緒」

 ホテルを後にしようと、エレベーターのボタンを押したところで、倉木さんに呼び止められた。本日何度目かは分からないけど、私はふいっと視線を逸らす。

「怒ってる?」

「怒ってません」

 珍しく慌てた様子の倉木さんに、私も珍しくぶっきらぼうに返した。そこでエレベーターが来たので素直にふたりで乗り込む。
 
 自分では泊まることがないようなホテルに宿泊できて、調度品も設備も文句なしの素敵さだった。バスルームも外国のお城のような造りで、心ときめかせながらゆっくりと楽しんだ。

 倉木さんの体調もあって夕飯はルームサービスを頼んだけれど、これまたホテル一押しのコース料理で、どれも全部美味しかった。

 そう文句なんてなにひとつない。怒るなんてとんでもない。むしろ、倉木さんには感謝してもしきれないくらいだ。けれど。

 逸らし続けていた視線をちらりと倉木さんに向けると、視線を感じたのか倉木さんもこちらを向いてくれた。おかげで目が合ってしまい私は衝動的に俯く。

 エレベーター内に気まずい空気が流れるが、どうすることもできない。こういうときに限って誰か途中で乗ってくることもないのだ。

 分かっている。私が勝手に意識して、気まずさを感じているだけで倉木さんはなにも悪くない。でも、どうしても恥ずかしくて普通にしていられない。考えないようにしていたのに、嫌でも昨夜のことが蘇って体が熱くなる。
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