泥酔ドクター拾いました。
「謝らないでください……」

彼女の瞳から幾筋もの涙がこぼれ落ちる。

酷く傷ついた表情をしている彼女を、やはり抱きしめたいという衝動に駆られるのにそれが今は出来ずにいる。これ以上、彼女を傷つけるわけにはいかない。

俺は藤代さんをじっと見つめたまま、どうすることも出来ずにいる。
「わ、私、もうこれで失礼しますね。また、職場で…。さよなら」

2人を流れる重たい空気から逃げるように、彼女はくるりと俺に背を向けて走り去っていった。

俺は追いかけることも、その背中に声をかけることも出来ぬままその場に立ち尽くすことしか出来ずにいた。


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