魔術屋のお戯れ

厄災の始まり10

「手数をかけたな」
 戻ってきた黒龍に聖が言う。
「なんだ、ありゃ。ほんとに手負いの獣だ」
「何でも人があまり好きではないそうだ。昨日ちょっとおちょくったんだがなかなか……」
 昨日から今日まであった事をかいつまんで話す。
「昨日の件はお前さんが悪いと思うが」
 やや呆れ顔で黒龍が言った。
「適性の診断もあったが、引っかかる事があったのでね」
「分かったのかい?」
「……いや、適性はある」

「その調子だと、あの事(、、、)は隠してるんだな」
「無論だ。少々様子見をしようと思ったのでね。一ヶ月は試用期間と言ってある」
「なるほど。あれは確かに油断できねぇ。四条院(しじょういん)にはきちんと弟子にしてから報告か」
「そのつもりだが、一応紅蓮を通して樹杏(じゅあん)に調査だけは頼んだよ。夏姫と紅蓮は運よく顔合わせもしたしね」

 四条院家、京都にあるこの家は日本における国内有数の企業で政界・経済界に大きな影響力を持った家、そして特殊な呪術を使う家ということでも一部では有名である。

「それで、呪力のほどは?」
「そこまではかっていない。携帯電話の料金払うのにまさか三時間もかかると思わなくてね」
「は?」
 黒龍が怪訝そうな顔をして、一つ悩んだ後、呟いた。
「混んでいたのか?」
「いや、ショップに行くまでに三時間だ。ここから二駅程度の場所だったはずなんだが」
 痴漢に乗り物酔い、そして靴擦れ。挙句の果ては医務室で駅員や警察と会話したのは聖というどうしようもない状況になったのだ。
「逸材であることは間違いない。……奇妙な『守り』が気になるが」
「お前さんが分からない呪術がこの世にあるのか?」
「あるさ、私だって万能ではない。最たる例は祖父江(そふえ)一族かな?」

 祖父江の血はヒトならざるものをひきつける。それだけならまだかわいい。祖父江は子々孫々を守るために独自の手法を取ったのだ。その方法は一子相伝。謎に包まれている。四十年ほど前までは祖父江家の人間が本当にいるのかすら謎だった。

「紫苑(しおん)の母親が保護されなかったら、謎のままだったからね」
「……紫苑の母親は十人兄弟だったはずだな」
 結局その女は現四条院家当主の愛人になり紫苑を生した。
「明日、紫苑に来てもらうか?そうすりゃ一発で祖父江の者かどうかは分かる」
「いや、もう少し様子を見てからにしようと思う」
 祖父江ではない、それだけは聖が確認しただけで分かった。
「じゃあ、俺は帰るぜ。楽しいもん見たな」
 そう言うと、と黒龍と呼ばれた男の姿がぐにゃりと歪む。そしてそこには一頭の龍がいた。
『……嬢ちゃんの部屋の鍵持ってきちまった』
 それだけ言って、聖に鍵を渡してきた。

「マスター」
 唐突にサファイが入ってきた。
「挑戦状です」
 サファイに渡されたものは、棘だった。
「……面白い。これは夏姫に?」
「はい。履いていた靴に仕掛けられておりました。そのせいもありかぶれ等も」
「それであそこまで酷かったわけか。あの男もなかなかやる。一度夏姫のところに行くとするか」

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