black×cherry ☆番外編追加しました
コンサート
コンサート当日は、夏にしては少し涼しい陽気だった。

早起きをして、いつもより入念にバイオリンの手入れをしていく。

手の傷は、昨夜、寝る前にパパに塗ってもらった薬がよく効いてくれていた。

傷口はとじたみたいだし、触らなければ痛みもなくてほっと胸を撫で下ろす。


(よかった・・・)


演奏中は、痛むこともあるかもしれない。

けれど触らなければ痛まないくらいの痛みだし、きっと大丈夫・・・と、自分に暗示をかけておく。



朝食の後は、ママの手で髪の毛をアップヘアにしてもらう。

毛先を巻いて、華やかにボリュームを出したヘアスタイル。

自分で施したメイクには、「仕上げに」と、ママが手を加え、マスカラを塗ってさらに華やかにしてくれた。

ママは本当に、手先が器用だと思う。

「うん・・・。かわいい。これでピンクのドレスを着れば完璧だわ」

「ありがとう・・・」

ママは、昨日のことはもう気にしていないというように、明るく話しかけてくれた。

だけどどこか、無理をしているように見えるのは、気のせいではないと思った。

「お食事会はなくなったけれど、早川先生もご家族もいらっしゃるからね。ご挨拶はきちんとしようね」

「・・・」

ママの言葉に、私は思わず黙り込む。

食事会が延期になったというだけで、縁談がなくなったわけじゃない。

「咲良」

「うん・・・挨拶はする。するけど、私は・・・」

「・・・っ、咲良!」

気持ちを伝えようとしたところで、ママの顔が厳しくなった。

私はやっぱり、この表情がとても苦手だ。
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