black×cherry ☆番外編追加しました
婚約、そして事件
早川先生との食事会の朝。

私は、ママが予約していた美容院に着付けに来ていた。

「じゃあ、帯をぎゅっと締めますからね~」

「はい、お願いします・・・」

吉祥文様の、色鮮やかな振り袖だった。

ママが事前に選んでいたもの。

おめでたい席にふさわしい柄だと、着付けの方が教えてくれた。

「咲良、すごく綺麗よ」

着物姿の私を見ると、そう言って、ママはとても嬉しそうな顔をした。

けれど私は複雑だった。

綺麗なら、黒崎さんに見てほしかった。

もう、叶わない願いだけれど。





結局私は、食事会を断り切れず、こうして食事会に行く準備をしている。

あともう1時間・・・1時間も経ってしまえば、両家の顔合わせをする時間になっているだろう。


(本当に、早川先生と婚約するんだ・・・)


ある意味、夢のようだった。

私はまだ学生で、先生とはおつきあいの期間もなくて、それなのに・・・結婚の約束をするのだなんて。

断りたかった。けれど、断ることができなかった。

だけどなにを言ったとしても、全てが言い訳になってしまう。

最終的にここに来たのは、私自身なのだから・・・。





まだ、黒崎さんを好きな気持ちは変わらない。

けれど、黒崎さんは私とは正反対の女性が好きで、あきらめなくてはいけないことも、忘れた方がいいことだって、当然わかっているつもり。

なのに、最後に会った日のことを私は何度も思い出す。

引き留められて、今のままでいいのだと、そう、言ってくれたこと。


(どういう意味で言ったのか、よくわからないでいるけれど・・・)
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