カノジョの彼の、冷めたキス
平静な表情を保ちつつ、内心ヒヤヒヤしながら挨拶をしたら、渡瀬くんが小さく会釈した。
それから何も言わずに、あたしから離れて階段を上っていく。
渡瀬くんの足音が遠ざかり、彼が非常階段のドアを開けて外に出て行く音が聞こえてしばらくしてから、あたしはようやくほっと胸を撫で下ろした。
大丈夫、だよね……?
何も咎められなかったってことは、たぶんあたしが覗き見してたことは気付かれてないはず。
あんなとこに突っ立ってて、変なやつだと思われたかもしれないけど。
安堵のため息を吐くと、あたしは非常階段を一気に下まで駆け下りた。