カノジョの彼の、冷めたキス
不自然に階段の途中で立ち止まるあたしにずんずん近付いてくる渡瀬くん。
気まずい表情を見られないように、うつむいて彼からわざとらしいくらい顔をそらす。
このまま、何もなかったように通り過ぎてくれることを祈る。
それなのに……
「おつかれさまです」
あたしのそばでなぜか立ち止まった渡瀬くんが、気だるそうにそう言ったからドキリと大きく心臓が跳ねた。
え?え!?
もしかして、渡瀬くんはあたしが誰だか気付いてる……?
下に落としていた視線をあげると、こっちを振り向いていた渡瀬くんと目が合う。
何を思っているのか、彼は綺麗な切れ長の目で、あたしのことをじっと見ていた。
もしかして、あたしが渡瀬くんと皆藤さんのラブラブシーンを見てたこともバレてる……?
「お、お疲れさま、です……」