副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
第一話 出会いはひとときの夢の中で
 個室の扉をノックする音がして、現れた女性店員さんは品よく身体を折ると、ビールジョッキやグラスを一つずつ置いていく。

 私は目の前に置かれた烏龍茶のグラスに映る自分の固い表情を見つけてしまい、ふっと小さく息をついた。

 今日は、俗に言う〝花の金曜日〟。

 せっかく定時で仕事が終わったから、帰りに本屋さんで気になっていた文庫本を買って、週末の休みを満喫しようと思っていたはずなのに。

 ……どうしてこんなことになったのだろう――。

「お仕事お疲れ様です! かんぱーい!」

 キン、と次々にグラスがぶつかる高い音を聞きながら、ワンテンポ遅れてグラスを持った手を慌てて前へと出した。

「じゃあ、自己紹介始めましょうか。男性陣からお願いしまーす」

 まるでイベントの司会者のように手慣れた様子で進行をしていく、私の隣に座る親友の榎原 真希(えのはら まき)。
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