その恋、記憶にございませんっ!
「気にするな、唯。
 食ってみろ、蘇芳っ。

 この店、なに頼んでもハズレがないぞっ」

「ああ、いただこう」

 気づくと、夢中でメニューを見ている翔太を蘇芳は随分と微笑ましげに見ている。

 なんというか。
 戦闘能力のない小さき者でも見るように……。

 終わったな、と唯は思った。

 翔太さんの気づかぬ間に、この戦いは既に終結してしまっている。

 蘇芳さんにより、一方的に。

 翔太が熱く料理について語るのを、蘇芳は頷きながら、聞いてやっている。

 最早、敵ではないものを見るかのような、慈愛に満ちた瞳で。

 そんな夕食だった――。








< 142 / 266 >

この作品をシェア

pagetop