ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
甘い罠に堕ちて
浜田に送ってもらうタクシーの車中、美姫の心は峯岸でいっぱいだった。
浜田と峯岸の会話から、峯岸が今の会社を退職したとわかるが、確かめずにはいられない。
「峯岸さん…会社辞められたんですか?」
「あ、うん。峯岸の奴、フリーの契約秘書ってやつになるんだとさ。尊敬できない役員にこき使われるより、自分で選んだ人物の側で働きたいって贅沢な事言って辞めたんだ」
「大丈夫なんですか?」
仕事はあるのだろうかと心配になり、見えもしない峯岸を振り返り捜した。
そんな美姫の行動に浜田は苦笑い。
「峯岸が心配?」
「…あっ…いえ……」
図星を突かれ、言葉に詰まる美姫を浜田はなんとも言えない表情で見つめていた。
「あいつなら、大丈夫だよ。独立したのも計算して行動しているから、たまたま、タイミングが今だっただけって話で、美姫が心配する必要はないと思うけど…峯岸は美姫に何も言わずに別れたんだね」
「はい、2人の会話で始めて知りました」
……
そこで、美姫はハッとして浜田を見た。
浜田は、悲しい表情をして無理に口元に笑みを作っている。
「そう…」
それ以上何も言わず、美姫を送ってくれた。