Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
慌てて私は彼に背を向けて走り出した。
傷ついたなんて、知られたくない。泣き顔なんて、絶対に見せられない。
これ以上、彼の顔を見たくない。

「華穂ちゃん!」

うしろから、私を呼ぶ声が聞こえたけれど、もう彼の言葉は信じないと決めた。立ち止まってなんてやるもんか。

やたら高いヒールによろけながらも私はなんとか閉まりかけのエレベータに滑り込むことができた。

「華穂――」

追ってきた彼と私の間を引き裂くように、エレベータの扉が閉まる。すかさず行き先階ボタンの『1』を押した。

エレベータが再び開くことなく、下降し始めたのを確認したら、じわりと堪えていた涙がこぼれ落ちた。

うそつき。
もう二度と、あんな笑顔に騙されない。

手の甲でぐっと涙を拭ったら、キラキラと光る金の粒子が涙に混じった。アイホールに施したラメが落ちたのだ。
せっかくの綺麗なメイクも崩れてしまった。そろそろシンデレラの魔法が解ける時間だ。

エレベータから降りた私は、彼から逃げるように、ふらふらと歩き出した。
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