狼社長の溺愛から逃げられません!
 

「あなたもきっと踊りたくなる……。心が踊るような90分……」

お気に入りのペンを持ち、ブツブツ言いながらノートに短い文章を書いていく。
思いついて書いては気に入らない文章の上に線を引き訂正しての繰り返しで、開いたノートの上は自分で書いた文字で埋め尽くされていた。

見開きいっぱいに描かれた文字を見下ろして、ふーっと息を吐き出す。

少なくとも二十個はある。我ながら、なかなか頑張った。
全部が自信作だとはいえないけど、これだけあればひとつくらい合格点のものがあるはず。

仕事をやりとげた達成感と満足感に、ふんふんと鼻から息を吐き出してうなずいていると、突然視界からノートが消えた。
驚いて見上げると、背の高い男が険しい顔で私のノートを眺めていた。

「しゃ……っ」

その人の姿に、私は思わず跳び上がる。

目鼻立ちのはっきりとした端正な顔。かすかにクセのある黒髪を自然にサイドに流し、その前髪の間からのぞく瞳も髪色と同じく艶のある黒。引き締まった長身に細身のスーツを身に着けたその人は、ひと目を引く華のある容姿をしていた。

街中ですれ違えば、思わず振り返りみとれてしまいそうな美貌。
けれどその人の外見だけではなく中身もしっかり知っている私は、みとれるどころか恐怖で青ざめる。

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