熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
真剣に過保護全開
人の噂というのは、光の速さで伝わるもの。
世界の穂積グループの御曹司の婚約解消ともなれば、対外発表前だというのに、摩擦のない真空中の光伝導並みの速さで、社内を越え社外へと伝わっていった。


婚約解消から二週間が過ぎた、十月半ば。
優月は行く先々で、グループ内外の企業トップから、縁談話を持ちかけられるようになった。
商談そっちのけで長女や次女、姪っこやら孫やらを売り込んでくる相手に、優月は若干頬を引き攣らせながらも笑顔を絶やさずにいた。


『婚約解消から間もないので、すぐに次という考えはありません』とスマートに交わされても、日本の経済産業界の重鎮たちにとって、想定外に『フリー』になった穂積グループの御曹司は、喉から手が出るほど娘婿に欲しい存在であることは間違いない。
隣や後ろに控えて様子を見ている私が、ハラハラするほどしつこい。
いつも近くにいる人間ならわかる程度ではあるけれど、日を追うごとに優月の表情は能面のように冷たくなっていった。


自分の娘や親族を売り込むのに必死な、大企業の会長や社長の姿を見ていると、うちの両親がよく婚約解消に頷いてくれたもんだと思う。
うちの父は厳格だった祖父に反発するかのように、越川の家名や家督に無頓着な人だけど、それは、私が女で一人っ子のせいもあるんだろう。
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