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会場までは来賓用の駐車場からも少し歩く。
一般の来場者の波と、浴衣と下駄で慣れない足元が、いつもよりも歩幅を狭くさせる。

人混みの間を縫うように上手に進む男性ふたりを、必死で追いかけていたけれど、逆流してきた数人に行く手を遮られて見失ってしまった。

まあ、流れにのって会場に辿り着けばなんとでもなるだろう。不安定な足元に目を落としたときだった。

「危ないじゃないか」

右腕を引かれた。不意打ちのような力に逆らえずよろけた身体は、さらりとした肌触りの濃紺に包まれる。そのすぐ後ろを、ガヤガヤと賑やかな集団が通り過ぎていった。

「……徹生さん」

「急に姿が消えたと思ったら、人に曳かれそうになっているとはな」

バカにしたみたいに目で弧を描きながらも、私の右手をとり歩き始める。今度はゆっくりと、私の歩調に合わせて。

なんだか掌が無性に汗ばんできて恥ずかしかったけれど、この大きな手を「離して」とは言い出せなかった。


花火自体は湾に浮かぶ台船から打ち上げられるそうだ。普段は埠頭として利用されている場所が観覧席となり、招待客たちの席もその一画にあった。
ほんの数メートル先は昏い海という特等席に案内される。もう一般の人は入ってこられない場所で、歩きやすくなったにもかかわらず、徹生さんの手は私から離れていかない。

来賓は協賛企業の社長さんや重役といった人たちが大半のようで、浴衣まで着た私たちはちょっと浮いていた。

だけど、そのなかで一際目立つ、ウェーブをつけた髪をゆるふわにまとめた頭をみつけ、つい手に力が入る。それが伝わったのか、「大丈夫」というふうに握り返されて、思わず徹生さんを見上げてしまった。

「やっと来たわね」

蒸し暑く、ねっとりとした潮風がまとわりつく海沿いで、清涼感のある声がする。

白地に藤色の流水紋、その流れにのるように描かれた萩や桔梗が秋を先取りする浴衣に身を包む艶やかな寿美礼さんは、少し濃いめの口紅を塗った唇で笑みを作る。

いつの間にか楢橋さんは、彼女の傍らに戻っていた。