晴れのち曇り ときどき溺愛
第一章

好きは知らない

 決して望んだことではなかった。流されるように始まった思いは自分の気持ちでは押し込めないほどに膨らんでしまった。素直な気持ちのままに動く私は恋をしていたのかもしれない。


『彼の瞳に映る私はどう見えるのだろうか?』


 私は自分の心を押さえつけることが出来そうもなかった。自分の不器用さに辟易する。


 私は今まで穏やかに生きてきた。優しい両親にちょっと生意気だけど可愛い弟。そして、特別に優秀というわけではないけど、高校、大学と普通に過ごして、今は世間の人がその名前を聞けば、『いいところにお勤めね』とは言われるくらいの会社にも勤めている。


『好きになってしまった』

 それだけは胸を張って言うことが出来る。でも、思わなかった方向に気持ちが流れたのも真実だった。素直に自分の気持ちのままに動く私はやっぱり恋をしていたのかもしれない。


 走りながら息が切れている。でも、止まれない。幸せをどうしても掴まえたいという思いが私を衝動させた。

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