蜜月なカノジョ(番外編追加)

男性恐怖症



私、丸山杏は極度の男性恐怖症だ。

その始まりは自分では覚えていないけれど、親が言うには3歳の頃だったとか。
公園でほんの一瞬親の傍を離れた隙に、いかにもな風貌の中年男性に連れ去られそうになったことが最初だったらしい。

「最初」と言うのにはもちろん理由がある。
…そう。私にとって「こういうこと」はこれから先幾度となく襲ってくるのだ。

自分の記憶に最初に刻み込まれたのは8歳の時。
学校帰りに「お母さんが倒れて病院へ運ばれた」と近所のおじさんを名乗った見知らぬ男に連れ去られそうになった。車に乗せられようとしていたまさにその瞬間、本物の近所のおじさんがその異様さに気付いて助けてくれて、事なきを得た。

その次は11歳の時。他の子よりも胸の成長が早かった私は、普段から好奇の目で見られることがよくあった。
そんな中、同級生の男の子に「巨乳ばくだーん!!」なんて叫ばれながら突然胸を鷲掴みにされた。悪ふざけの延長でやったように見せかけて、その手の動きはやけに生々しく、私の記憶に鮮烈におぞましいものとして刻まれてしまった。
たくさんの人に見られていたということも、私の心を深く深く抉る結果となった。

その次は中学2年生の時、次は高校に入ってすぐ。そして卒業前にも。
女性が多いからと選んだ短大に入ってから、さらには最初に就職した職場で。
執拗に言い寄られたり下半身を晒しながら追いかけられたりセクハラされたり、果てはストーカー行為に至るまで。

数えだしたら両手では足りないのではないかというくらいに、とにかく性的な恐怖を味わわされ続けたのだ。
これで男性恐怖症にならない人がいるのならば今すぐ目の前に連れて来て欲しい。
逃げても逃げても自分の前に立ちはだかるそれらの現実に、私の心は限界すれすれまで追い詰められていた。
< 15 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop