彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~

現実 2

朝からの母の手術は無事に終わり、退院は5日後の予定だ。
術後の顔色も良くて私を安心させた。

「早希ちゃんごめんね。仕事は大丈夫だった?」
母は申し訳なさそうにしている。

「お母さんが気にすることないよ。今までろくに有給休暇使ってなかったから大丈夫。それより痛くない?」
布団を直しながら聞くと母はニッコリした。

「たまには娘に世話して貰うのも悪くないかも」
「はいはい、たくさん甘えてくれていいですよ」
私もクスッと笑った。

「お父さんは帰って来られないの?」
「亜矢の産後に少し長く休暇を取ってもらうことにしたから、今はまだ帰国できないみたいね」
「そうなんだ。お母さんも淋しいね」
「もう慣れたけどね」

私たち姉妹が家を出た後、母は父のいる海外で夫婦水入らずでいたのだけれど、義兄が亡くなってからは姉の子どもの世話をしているから、ほとんど父の所には行っていない。
仲がいい夫婦だから寂しいだろうと思う。

コンコン

ノックの音がして姉と姉の娘の真彩が入って来た。

「ばあばー」

3才の真彩は祖母が大好きだ。
「まーちゃん、ばあばを揺すったりしちゃダメよ」
姉が注意するけど、真彩は走ってばあばの元に行く。

「おおっと、アブナイ」
私はひょいっと両手を真彩のわきの下に入れて持ち上げるようにして抱き上げた。
「はい、セーフ」
母に抱き着く前で真彩を止めた。

「さきちゃんのイジワルー」
真彩は足をパタパタとさせて抵抗する。

「真彩がばぁばに抱き付かないって約束したら下ろしてあげる」
「えー。ばぁばの抱っこダメ?」
「ダメ-。抱っこなら私がしてあげるよ」
「わかった-。さきちゃんやくそくね」
「うん。約束」

真彩を下ろして母のベッドの横に連れて行った。

「ばぁば、いたい?」
と話しかけている。
痛くても孫は可愛いんだろう「痛くないよ」と言っている。
そんな2人の姿を見ながら姉はニコニコしていた。

「ね、早希ちゃん、もしかして携帯電話オフにしてる?」

「そうだよ。病院って携帯電話ダメなんでしょ?」
「今はそうでもないみたいよ。場所とマナーをわきまえれば」
「えー、そうなの?」
「うん。そうみたい。病院だからこそ連絡したいって事があるじゃない」
「そう言われればそうだね」
「だから、電源入れておいて。私も早希と連絡つかないと困るから。もしいきなり破水とかしたり陣痛とかがあるかもしれないし」

うわっ、本当だ。

急いで電源を入れてマナーモードに設定した。
電源を入れると不在着信とメールが届いているようでスマホが振動をはじめる。



< 69 / 136 >

この作品をシェア

pagetop