ドルテア国一の生花の生産量を誇るクレムラート領の領主屋敷には、三日に一度、屋敷に飾る花が届けられる。


「はい、確かに。ありがとうございました。ご苦労様です」


それを受け取るのが、ローゼの朝一番の仕事だ。
商人はかしこまって応対するローゼを見て、冷やかしのまなざしを向けながら「どうだい、調子は」と声をかけてくる。


「お陰様で。良くしてもらっているわ、おじさん」

「そうかい。領主さまや出入りする貴族様に気に入られるようにするんだよ。ローゼちゃんは美人なんだから」


商人の打算を含んだ言葉は、天真爛漫に育ってきたローゼには全く届かない。感謝の気持ちを込めて商人を見つめ返す。


「ええ! 私、しっかり働いてお母さんたちに楽をさせてあげるわ」

「その調子だ。頑張れよ。わしがいなけりゃ、ここに働きに来るなんてことできなかったって、忘れるなよ」

「もちろんよ、おじさん」


ローゼは無邪気に笑い、花商人の背中を見送った。



ローゼが地方領主であるクレムラート伯爵の屋敷へ、メイドとしてやってきたのはつい一週間ほど前だ。

先ほどの商人は仲買人で、ローゼの実家を含めたいくつかの花農園から花を買い集め、領主屋敷や他領土の得意先へと花を売り歩いているため、昔からの顔なじみなのである。

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