マドンナリリーの花言葉

ローゼはそんな仲買人たちの噂にのぼる評判の美しい娘で、近くに住む青年だけではなく、まともに話したことのないような近隣の花農家の跡継ぎからもこぞって好意を寄せられていた。

しかし、華やかな外見と異なり、中身はいかにもな田舎娘である彼女は、彼らの気持ちにはなかなか気付かなかった。

恋とは、物語で読むような洗練された男性が、美しいドレスをまとった女性にするものだと思っていて、歯の浮くような言葉が恋の告白だと思っていたのだ。
純朴な青年が贈るたどたどしい好意は、ローゼにはただの褒め言葉にしか感じられなかった。

汗水を垂らして働くことを常とする彼らにとって、ローゼは純粋で美しすぎた。

農園で仕事をしていてさえ彼女の周りだけ空気が違うようで、自分など相手にされないだろうと尻込みしてしまったのだ。

結局、ローゼが年頃になっても、具体的に言い寄ってくる男は現れず、ローゼは現実の恋を知らぬまま、恋に恋する状態を保ちつつ十六歳の年を迎えてしまった。


その頃、クレムラート伯爵フリードと隣のベルンシュタイン領から輿入れしたエミーリアのお披露目会が開かれたのだ。

当時、実家の花農家を手伝っていた彼女は、お祝いの花を届けるのに人手が足りないと、仲買人の息子であるクルトに頼まれ、一家と一緒に領主屋敷まで行くことになった。

クルトには別の下心があったのだが、のんきなローゼはそれには全く気付いていない。ただ、豪華な屋敷に目を奪われ、うっとりとしながら彼らの入荷の作業を手伝った。

やがて「少し覗いていこう」とクルトに誘われ、大勢の招待客でごった返す大広間に使用人のふりをしてもぐりこんだ。

そこで、ローゼは若き伯爵と美しい奥方を目にした。
金髪碧眼で若く、堂々としたたくましい二十歳の当主と、気品のありつつも愛らしい十八歳の若奥様の姿はまるでおとぎ話の王子様とお姫様のようで、ふたりの仲睦まじい様子は、当時十六歳の乙女心をとろかすには十分だった。

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