眠り姫の憂鬱
本当の王子。
目覚める前、
私の頬を撫でる指の感触があった。

ゆっくり優しく。

次に目覚めたら、また、全て忘れていたいと思ってしまう。

「美月」と呼ぶ声がする。

全て忘れてショウゴさんと出会いたい。

また、最初から…



…名前を覚えている時点で失敗だな。

とゆっくり目を開ける。

ショウゴさんの家のベッドの上だ。


「良かった。美月。心配したよ。」

「ショウゴさん、ごめんなさい。」と言うと、

「いいんだ。あのカフェに行ったんだね。
きっと君とあの店にいたのは俺じゃないと聞かされたんだろう。」

「…どうして知ってるの?」

「うん。矢野さんに事情を聞いたよ。
彼女は俺が勝手に記憶のない美月の婚約者になったんだって言ったんだよね。
美月が信じても無理もない。
美月は何も覚えていないんだから…
でも、美月は俺を好きだって言ってくれたね。
俺の所に戻ってきてくれた。
…嬉しかったよ」とまた、頬を指で撫でた。


もう、迷わない。
なにも覚えていなくても…

私はショウゴさんを愛している。



「…今日は…一緒のベッドに寝てくれる?」と小さな声で聞くと、

「…もちろんいいけど…
明日色々分かってからの方が美月にとってはいいんじゃないかな」と私の顔を覗く。

「…抱きしめてくれるだけでいいの。」と言うと、

「それは無理だって言ったろ」とクスクス笑って私の唇に深く唇をつける。



何を聞いても私がショウゴさんを好きになっている事実は変わらない。

ショウゴさんが勝手に婚約者になったのだとしても…

私が『イケタニ ショウ』を裏切ることになっても…

< 46 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop