ヒグラシ
屈託
・・・・・

次の日は、浮き足立った気持ちとは反対に、のんびりと過ごした。

樹の電話のせいで興奮しなかなか寝付けなかった私は、もはや朝なのか昼なのか判別できないような時間に起床してしまい、母に笑われてしまった。

夜は両親と外食へ行き、思い出話に花が咲いた。祭り会場の中心からは少し離れているというのに、馴染みの和食屋は平日とは思えないほど賑わっている。


「ーーお祭りの時期だけでも、こうして街が賑やかになると嬉しいわね」


どこか諦めたようにも聞こえる母の言葉を聞いて、地元を離れたことを私はまた密かに後悔した。


結局私は、生まれ育ったこの街が好きなのだ。

だだっ広いだけで寂れている駅前も、少し横道に逸れるだけで砂利道や田んぼが広がる景色も。

年に一度の祭りに、全身全霊で挑み続ける幼なじみのことも。

私はこの街に対して、時に毒づいたり、つい文句を言ってしまったりもするけれど、それは心の奥底では期待しているから。好きだからこそ、希望を持ち続けることができる。
幼い頃から樹と過ごしてきたこの街は、私を〝昔に戻れたら、絶対に離れたりしない〟と本気で後悔させたほどの魅力的な場所となっていた。

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