瑠衣の震える手が、俺の背中の服を掴んでいる。
うっすらと目を開くと、彼女の閉じた瞼が見える。

必死でキスを受け止めるその唇は、固く結ばれたままだ。
今の彼女が感じている様々な葛藤を乗り越え、現実を受け入れようとしている姿が、健気で愛おしく思う。
出会ったばかりの彼女に、どうしてこんな気持ちを抱くのかわからない。
お互いに都合よく利用するだけのはずなのだから、本当はこうしてキスを交わす必要もないはずだ。
どうして俺たちは自然に、さも当たり前のように唇を重ねているのか。

幼なじみとの縁談を打ち消したいと、彼女は強く訴えてきた。
今の状況は、果たして彼女にとって正しい選択なのだろうか。
深く見知った幼なじみのほうが、初対面でしかも偽装であることを条件にしている自分と結婚するよりは、はるかにいい気がする。

彼女の頬に当てていた手を彼女の背中に回す。そのまま抱きしめるように彼女を包むと、そっと唇を離した。

閉じられた目がゆっくりと開き、その奥から黒く光る大きな瞳が現れた。

照れくさそうに、微かな笑みを浮かべる瑠衣に、俺も軽く微笑んだ。

「キスが上手くなってきてる。今の君は、とても魅力的だよ」

頬に軽くキスをしながら言う。

「私はただ……夢中で」

瞬時に頬を染める彼女には、これまで本当に男性と接触がなかったのかと疑うほどの魅力があると、素直に思う。