気高き国王の過保護な愛執
「はあ、こりゃ…」


口ごもり、無意識の仕草で頭の上から毛織の帽子を取る。それを胸に押し抱き、「はあ」と繰り返した。


「こりゃまた、なんというか…」

「ルビオよ、しばらくうちに置くから、よろしくね」


ぞんざいともいえる紹介を受け、敬意を払う必要はないと気がついたらしく、揉みしだいていた帽子をはっとかぶり直す。しげしげとルビオを見上げ、ため息をついた。


「張りのある、いい身体ですねえ」

「けがしてるけどね」

「フラビオの奴がロバに踏まれて足を砕いちまったんで、祭壇を組むのに人が足りないんですよ」

「けがしてるんだったら」


それまでおとなしく会話を聞いていたルビオが、「リッカ」と肩をつついた。しきりに自分を指さしているのを見て、そうだった、とフレデリカは思い出す。


「彼はリノ、この村の、貴重な若い世代よ、今の話はね…」


ルビオを拾ってから月の半分ほどが経過した。

その間にわかったことだが、彼は土地の言葉を、まったく解さない。

こういう人間が、いないわけじゃない。外国からの旅人は必然的にそうなるし、土地に馴染むのを下卑たことと決めつけ、これ見よがしに通訳を住み込ませている貴族もいる。

だけど…と考えるのを、いつもフレデリカは途中でやめるのだった。本人の記憶がない以上答えは出ない。ルビオは正直で、気が利いてよく働く、いい青年だ。それで十分じゃないか。


「ああ、なるほど」


フレデリカの説明を聞いて、ようやくリノが向ける、舐めるような視線に納得がいったらしい。ルビオはこだわりなくうなずいて、リノのほうを見た。


「そういうことなら、動ける範囲で手伝わせてもらう」

「ちょっと、ルビオ」

「え、このべっぴんさん、もしや手伝うって言ってくれてますかね?」
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