気高き国王の過保護な愛執
「大丈夫だよ、彼らに声は届かない」

「そうね」


懐かしい故郷を思い浮かべる。愛すべき村人たち。だがルビオの言う通り、あそこに"誰からも見られない場所"は存在しなかった。

善意から、ときおり見ないふりをしてもらえるだけだ。

考えてみれば、こういう環境でもない限り、ルビオが単身、妹姫の外遊びに付き添えるわけがなかったのだ。


「あのとき、ルビオがすぐ、私の立場に共感してくれたのは、あなた自身がそういう環境で育ったからなのかしら」

「それは単に、ぼくが心優しいからじゃないかな」

「イレーネ様、転んだら泥のついたドレスを洗うために、三人の女性が丸一日灰汁まみれになって、手荒れに泣くことになるんですよ」

「すごい教育だね…」


傾斜の向こうに消えていたイレーネの頭が、次第に見えてくる。ぶすくれた顔で戻ってくると、じろっとフレデリカを見上げた。


「それで雇用が作られてるのよ」

「それも真なり、です。ですがその雇用条件を守りながら、彼女らに余分な負担をかけないように努力するのが、雇用主の義務なんですよ」

「義務を守らなかったら?」

「愛されません」

「一番うまく汚れを落とした者に報酬を与えたら?」

「ハンカチかなにかでお試しなさい」

「この場所、いいでしょ」


普段より簡素な、膝丈の綿のドレスで、イレーネがくるくる回る。フレデリカは「ええ」とあたりを見回し、腰を下ろせそうな木陰を見つけた。


「かつてここがどういう場所だったか、ご存じですか?」

「丘でしょ?」

「おじいさまは、他国と戦争をしていました。そのとき外敵から王都を護るために建てられたのが、今お住まいの王城です。王城からよく見え、崖下に隣接する国も見渡せる、この広い広い場所を、あなたがおじいさまだったら、どうお使いになりますか?」


王女の瞳がきらめき、いたずらっ子の目つきに、知性が舞い降りた。健やかなひたいに生えた眉をしかめ、考え込む。
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