気高き国王の過保護な愛執
「軍を敷くわ」

「その通りです。ここは戦争中、王国軍の本拠地でした」


フレデリカはルビオに預けたかごから、薄い書籍を取り出した。


「当時の図録です。あちらの木陰で見ましょう。その後で、おじいさまがこの地形をいかに上手にお使いになり、最小限の犠牲で勝利したか、歩きながら確認しましょう」




意気揚々と木陰に向かうフレデリカを見送りながら、イレーネはため息をつく。


「私、遊びに来たんだけど」

「仕方ない。これまで逃げ回っていた報いだ」


兄が苦笑しながら、イレーネの細い金色の髪をくしゃくしゃとなでた。


「どうしてこれまで、ガヴァネスに反抗していた?」

「私にものを教えられるだけの、骨のあるのがいなかったからよ」

「リッカはどうだい」


てきぱきと布を広げ、木陰を居心地よく整えているフレデリカを見つめる。


「私もリッカって呼んだら、嫌がるかなあ?」


優しい笑い声が降った。


「喜ぶと思うよ」




子供って元気ねえ。

仮にも王女に対して失礼と理解しながらも、フレデリカは考えた。

イレーネは草の上で、ごろごろと前転、後転、側転を繰り返している。

木陰に座って見守るフレデリカの横で、軽食を済ませて眠くなったらしいルビオが寝そべり、同じようにイレーネの体操を見守っている。


「私、ようやく実感が湧いてきた気がするの」

「なんの?」

「全部よ。お父さまがもういないことも含めて」
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