結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「っ、危ない……大丈夫ですか?」


心配する整った顔がこちらを向き、ドッキンと大きく心臓が飛び上がる。

社長は片手で戸口に掴まり、もう片方の腕は私の腰に回してしっかりと支えてくれているのだ。

信じられない……。片腕で抱きかかえてもらっているなんて、恥ずかしさと恐縮さと、ドキドキしすぎの不整脈で死ねる!

絶対皆に注目されているだろうし、この状況をなんとかしたくて、社長の腕から抜け出そうと身体が勝手に動いてしまう。


「だ、だ、大丈夫です! すみませ──」


彼の胸を遠慮がちに押し返し、下がろうとして足を引いたとき、はっとした。この靴には、まだ油が残っているということを思い出して。

“しまった”と思っても、もう遅い。再びつるんと滑り、今度はさすがに社長も支えきれず、一気に倒れていく。


「倉橋さん!」


焦った声が聞こえたとほぼ同時に、ガンッ!という音と脳が揺れるような衝撃が走った。

強烈な痛みを感じたのは一瞬で、視界が暗く、意識が遠くなっていく。私の名前を呼び続ける声も、どんどん小さくなる。

……あぁ、私の人生はこんなに間抜けであっけない終わりを迎えるのだろうか。

でも、最後に見たものが美しい人であったことだけが、唯一の救いだ──。




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