結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「お待ちしておりました社長。と、倉橋さん」

「お、お疲れ様です……!」


聡明そうな二重の瞳、紅いグロスがよく似合う唇。その美の迫力に圧倒されつつ、私は挨拶を返した。

どうして綾瀬さんがここにいるのだろう。今日は彼女の代わりということだったはずなのに。

それにしても、遠目でしか見たことがなかった彼女は、間近で見ても本当に美人だ。それに、花のようなとてもいい香りを纏っている。

男性なら誰もがほだされてしまうんじゃないだろうか、と思いながら私自身も見惚れていると、社長が紹介してくれる。


「彼女は私の秘書を務める綾瀬です。テーブルマナーや接待時の最低限のマナーを、彼女から教わってください」


穏やかに微笑む彼は、いつの間にか普段の王子様に変わっていた。一体どこにスイッチがついているのだろうか……。

それはさておき、やっぱり私は綾瀬さんからマナーを教えてもらうらしい。

確かに、結婚式以外でこんなお高いフレンチレストランで食事したことはないし、葛城さんにもどういう対応をすればいいのかわからないのだから、聞いておきたいことばかりだ。

ありがたい気持ちでいっぱいになる私に、綾瀬さんは優しく微笑んで言う。

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