イジワル騎士団長の傲慢な求愛
なぜこんなことになってしまったのか。
不幸の始まりは、弟のアデルがわずか九歳にして流行り病で亡くなってしまったことから始まった。

他に男兄弟はおらず、後継者不在で爵位を直系から奪われることに恐れをなしたローズベリー伯爵は、嫡男が健全である振りをした。

具体的には、年が近いセシルを弟のアデルに成り代わらせたのである。
次女は病弱で部屋から出られないと偽り、実際のセシルはアデルを装いローズベリー家次期当主として振る舞っていた。

あわよくば次の男児が生まれ、セシルはお役御免するはずだった。
けれど、いつまで経っても弟が生まれることはなく、そのまま母は他界してしまった。

幼い頃は、男女の体格差もそれほどなく、そもそも外交の場に出ること自体も少なかったため、なんとでもなった。

しかし昨年、セドリック伯爵が体を壊しがちになって状況が一変した。

ますます嫡男が不在というわけにはいかなくなり、外交の場には政務を任されるフェリクスとともにアデルが代理で立つことになった。



「出席者の中で新しい顔はいる?」

箱馬車に向い合わせで座りながら、セシルとフェリクスは明日の会合の算段について話し合っていた。

「二名ほど。ひとりは新興の加工業で成り上がり爵位を授かったエメ伯。そして、フランドル伯」

「フランドル伯爵には会ったことあるわよ?」

「代替わりされました」

書類をパラパラとめくりながら、フェリクスは事務的に読み上げる。
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