イジワル騎士団長の傲慢な求愛
父から情報をろくに引き継げなかった新参者のセシルにとっては、父の右腕として補佐をし続けてきたフェリクスが頼りの綱だった。

フェリクスはまだ二十代半ばで政務官としては若輩だが、頭の回る切れ者だ。
幼い頃から面倒をみてもらっていたこともあり、セシルにとって心の拠り所でもある。

周辺貴族の動向と、対するローズベリー家の立ち回り方を淡々と語り続けるフェリクス。
最初は聞き入っていたセシルだったが、道が悪くなり馬車の揺れが激しくなってきたあたりから集中力が途切れ出した。

「……ごめんなさい、少し、休んでもいい?」

胸を強く締めつけられている上に激しく揺さぶられて、セシルの体調は最悪だった。
フェリクスはセシルを見てハッとする。
蒼白の主人――それに気づけなかった自らの失態を悔やむ。

「……申し訳ありませんでした。大丈夫ですか」

フェリクスの眉間に皺が寄った。
この顔は怒っているわけではない、心配しているのだと、長年そばにいるセシルは知っている。

「平気よ」

「胸が苦しいのですか」

「今日は包帯を強く巻きすぎたわ」

「でなければ女性だとバレてしまうからですよ」

実際のところ、十六歳になるセシルの胸は豊満に育ちすぎて、もう隠しきれるものではなかった。
胸だけではない、体つきもしなやかな曲線を描き始め、もはや男と偽ることも限界だ。
だが、今さらやめるわけにもいかない。
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