オトナの恋は礼儀知らず
3.不覚にも酔っ払い
「マスター。
 私、久々にナンパされたみたい。」

「友恵さん綺麗だから。」

 マスターが調子いいことを言っているのは分かっているけれど、気分よく飲めるから喜ばしい。

 自分がおばさんだってことくらいの自覚はある。

 だいたい向こうもそれなりの年齢だ。
 自分だってどう見ても40代。
 30代なんて恐れ多い。

 どっちにしたって家庭があると考えるのが普通だ。
 さすれば自ずと答えは決まっている。

 あんな真面目そうな外見に似合わず不倫でも始めようかってとこだ。

 歳を取ってからの火遊びは大火傷するっていうのに、他人事ながら心配になってくる。

「悪い女に引っ掛からなきゃいいけど。」

 傾けたグラスは積み重なった氷が崩れてカランと乾いた音を立てた。


「友恵さん飲み過ぎですよ?」

 マスターに心配されるほどに酔ってしまった。

 不倫を誘われたとしても女として認められたわけでもあるわけで、お酒が美味しく進んで飲み過ぎた。

「あ……あの。ご一緒してもいいですか?」

 隣に訪れた人は心地よい穏やかな声で『桜川さん』を思い出した。

「どーぞ。どーぞ。
 いい声ね。好きになっちゃいそうね。」

 そこまでハッキリ話したのを覚えている。
 酔っていてもハッキリ話せる自分が今回ほど恨めしく思った事はない。



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