冷徹社長の容赦ないご愛執
 時間なら大丈夫だと確認するなり連れて来られた、空港からほど近い海岸沿いにある公園の駐車場。

 おじさんが車を降り案内してくれたのは、海を臨む小さな展望スペースだ。

 数段の階段を上がった先で、手すりに手をついた社長が思わず感嘆のため息をこぼす。


「これは、すごいな……」
 

 私たちが立っているのは、長い長い防波堤の一角。

 そこから二メートルほど下に見える海岸線には、真っ赤な絨毯を敷き詰めたような景色が、遥か彼方のほうまで続いていた。


「おふたりは本当に運がいい。
 このシチメンソウの景色は一年のうちでも十一月のこの時期にしか見られんとですよ」

「シチメンソウ……。なるほど、上からレッドカーペットのように見えたのはこれだったのか」

「沿岸に沿って千六百メートルは広がってますから、上空からの景色もさぞ映えていたことでしょう」

「ええ、とても綺麗でした」


 遠くまで敷かれた赤の絨毯を見つめる社長の横顔だって、どんな景色にも見事に映える。

 自分の故郷でありながら、私もこのシチメンソウの景色は初めて見たけれど、綺麗な横顔とこの絶景を同時に見られるなんてとても贅沢で、美しさにときめく鼓動はごまかせなかった。
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