冷徹社長の容赦ないご愛執
そうだ、九州へ行こう。
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 思い立ったらすぐに行動に移すのが、橘勇征という人だ。

 調整できる日程が近かったというのもあったけれど、社長が突然『九州へ行こう』と言い出してから、その日がやって来るのは意外に早かった。


 到着した海辺の空港の外は、雲ひとつない澄んだ水色の秋晴れ。

 東京ほどではないけれど、九州といえどやっぱり十一月も下旬に差しかかると空気は冷たい。

 午後の穏やかな日差しの合間を縫いサッと吹き抜ける北風に、コートの襟を合わせる。

 事前にチャーターしていたタクシーに、社長とともに乗り込んだ。

 空港を出ても周りは見て楽しめるものはなにもなく、見渡す限り稲の収穫が終わった田圃と、ときおりぽつんと建っている民家があるくらいだ。

 「新婚旅行ですか?」と親しげに尋ねてくるタクシー運転手のおじさんは、あり得ない誤解に取り乱す私を笑いながら、それを否定しない社長にいい場所があると教えてくれた。
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