いつか、らせん階段で
旅立ちは古都の香り

「明日から実家に顔を出してくるから。2日間位で戻るよ。残りの4日は夏葉と過ごす」

私の準夜勤務が終わり深夜に帰宅すると、起きて待っていてくれた尚也がそう言った。
尚也は高原デートから帰ってきて毎日私のアパートにいる。彼の仕事は一昨日で終わり、自分のアパートを完全に引き払いアメリカに持って行かない荷物は既に実家に送ってしまったらしい。

「あれ?3日間実家じゃなかったの?」
実家に帰省する日数が減っている。
私の焦りが顔に出ないように気を付けながら返事をした。

「夏葉といる時間を増やそうと思って。いらなかった?」

やはり顔に出ていたのかも。

「そんな事ないよ。ただ、ご実家のご両親だって尚也と過ごしたいと思ってるはずだから」
困った顔をしてみせた。

「家をでてから9年近くもたってるんだから、もうあっちだって何とも思ってないよ」

はいと私に缶ビールを差し出した。

受け取って2人で乾杯してゴクゴクと飲み込んだ。
疲れた身体にビールは優しい。

「明日は何時頃にうちを出るの?」

「そうだな、9時すぎかな」

「そう」
あと7時間後か。
私に残された時間はあと7時間。

缶ビールをテーブルに置いて尚也の首の後ろに手を回して抱き付いた。

「珍しいね。夏葉が甘えてくれるなんて」

私は返事をせず彼に軽いキスをした。
一度離れて尚也の顔を見た。
目が合って尚也は「どうしたの」と聞いた。

私は無言を貫いて、初めて自分から深いキスを仕掛けた。


もうこれで尚也とは終わり。
私は本当に尚也が好きだった。
その気持ちを込めたキスだった。
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