プルルル プルルル プルルル
電話が鳴ったのは、お風呂から上がったばかりで真っ裸の状態の時だった。
誰…?
手に取った画面に表示されていたのは、見慣れた名前。
…だけど、最近は見ることもなくなっていた、もう二度と見ることもないと思っていた名前。
『野村龍二』の文字。
龍二…?
突然のことにドキドキしながら、通話ボタンを押してスピーカーにした。
「…もしもし」
『もしもし、歩美』
「…どうしたの」
久しぶりに聞く龍二の声は以前と全く変わらなくて、少し胸の奥が疼く。
静かに身体を拭きながら、その声に耳をすませた。
『…今、お前のアパートの前にいるんだ。
部屋に行っちゃダメかな』
アパートの前?
「…何言ってんの…?」
『…とにかくちょっと話がしたくて…』
話…?今さら何の話があるっていうの。
なんか送り忘れた荷物でもあったかな。
戸惑ったけど、彼は今アパートの前まで来ている。
彼の住んでいる場所はここから5駅も先だ。
わざわざここまで来てくれたのに門前払いするわけにもいかない。
「…いいよ。来ても」