ハニートラップにご用心
TRAP2 頼れる上司


都内、高層ビルが立ち並ぶオフィス街。

一面アスファルトで舗装された道にあまり似つかわしくない、人の手で植えられたいくつかの木々。それに寄り添うようにして建つ三十階以上はあるだろうビルの十二階、第四会議室とプレートを掲げられた部屋の壁際で、私は落ち着かない気持ちを悟られないように精一杯のポーカーフェイスを保って立っていた。

私の身長と同じくらいの長さの机が部屋の形に沿うように、長方形に並べられている。
偶数になるように並べられたたくさんの椅子の中央、向かい合う形で土田さんと取引先の男性が座っていて商談もそこそこに会話に花を咲かせている。


今朝のニュースがどうとか、最近の日本や関連国の経済状況とか、私が聞いても何かの呪文を唱えているようしか思えない難しい内容だった。

退屈と眠気から思わず零れそうになる欠伸をなんとか飲み込んで目を瞬かせた時、急に土田さんと取引先の方が立ち上がったので慌てて姿勢を正す。


「――それでは、良いお返事を頂けることを願っております」


商談終了を告げる営業マンの常套句を交わして、私と土田さんは取引先の方が会議室から出ていくのを頭を下げて見送る。扉が閉まる音が聞こえてから少し置いて顔を上げると、ちょうど土田さんと目が合った。

つり目がちな黒目を縁取る程よい長さのまつ毛が瞬きによって揺れる。
すっと通った鼻筋に沿うように視線を落としていくと、薄く形の良い唇がゆっくりと開かれて、その色気に圧倒されて思わず息を呑んだ。

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