イジワル外科医の熱愛ロマンス
あれから、祐の忠告を忠実に守り、家でも警戒を怠らずに過ごしていた。
澄子さんにも、祐を家に入れないようにちゃんと言っておいたし、この週末、彼があの時のように奇襲攻撃を仕掛けてくることはなかった。


そして、医局でももちろんのこと。
祐が医局にいる危険性のある時間は、敢えて外に出る予定を詰め込んだ。
できるだけ、木山先生や教授に就いて、祐と二人にならないように、視界に入れないように徹底した。


気を張り巡らせ続けたおかげで、これまでのところ、無事、祐と接触せずに過ごしてこれた。
ところが……気を張り過ぎの反動か、ちょっと綻んだ時、大事な仕事の場でミスを連発してしまっている。


「先週末の歓送迎会でも。木山先生にお酌した時、手を滑らせて、ビール、バッシャ~って」


その時のことを思い出したのか、美奈ちゃんがクスクス笑うのを聞いて、私は居た堪れない思いでより一層肩を縮込めた。
その時。


「あれはさすがにちょっと驚いたね~」


そんな声と同時に、リノリウムの床に革靴がキュッと鳴る音が近付いてきた。
私だけじゃなく、美奈ちゃんと早苗さんも同じ方向に顔を向けて……。


「あ、木山先生。お疲れ様でーす」


美奈ちゃんが一番に声をかけた。
定食をのせたトレーを手に、木山先生が彼女の隣に立った。
そして私に顔を向けて、クスッと笑って目を細める。
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