リボンと王子様
王子様と私
「公恵叔母さん、私、屋上庭園で瑞希くんを待つよ」

「屋上庭園?
それは構わないけれど……こんな夜遅くに大丈夫?」

心配そうに眉をひそめる公恵叔母さんに、苦笑する。

「ホテル内の施設だから……それに私、もう二十歳だよ。
今日、叔母さんもお祝いしてくれたでしょ?
大丈夫だから、ほら、早く叔父様のところに戻って」

まだ納得できかねる、といった表情の公恵叔母さんの背中をポン、と軽く押してロビーに向かうエレベーターに促す。

「……知らない人についていったりしちゃ、ダメよ?
何かあったらすぐに連絡するのよ」


再度私に注意をして、公恵叔母さんは渋々許可をくれた。




エントランスでタクシーに乗り込む公恵叔母さんを見送った後、エレベーターに乗り込んで。

私は屋上庭園に向かった。




開け放された扉の向こうに足を踏み入れる。

眼前に広がる世界は優しい輝きを放つ。

一気に押し寄せる外の空気は、夏の気配を含んでいた。

湿気を帯びた空気の中に、木々の香りが漂う。



二十歳を迎えて。

私の生活は、世界は、激変したわけではない。

大人の仲間入りを果たした、ただそれだけ。

だけど。

何となく。

無邪気だった小さい頃が随分遠くに行ってしまったような寂寥感と。

根拠のない『大人』になったことへの期待が膨らむ。



『大人』になれば恋がわかるだろうか。

恋ができるだろうか。

異性に憧れることはあった。

だけど。

それが恋なのか、ただの憧れなのかはわからなかった。



どうしたら。

この人に『恋』をするのだと。

決定的にわかるのだろうか。

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