メトロの中は、近過ぎです!
少し落ち着いてき頃、大野さんがそっと車を出て、駐車場の入口にある自販機で水を2本買ってきた。

一つは私にくれたので、それを少しだけ口に入れる。
喉を通っていく冷たい水に、喉の奥が張り付いたみたいになってたのが、ゆっくり解かされていく。

もう一つの水でハンカチを濡らした大野さんが、それを私の左頬に当てる。
冷たさが心地良いけど、私の左頬はどんな状態なんだろうと不安にもなった。

「おまえは今日はもう帰れ。会社には俺が言っておく」

普段の数十倍優しい口調でそう言うと、車を動かし出した大野さん。

あとは何も話しかけられなかったから、私もただ窓の外を見ていた。


部屋の中まで送ってくれると、

「一緒にいてやりたいけど、どうしても今日やらなきゃならない仕事がある。一人で大丈夫か?」

何度も申し訳なさそうにそう言われた。

私の方こそ、大事な仕事があるのに送ってもらってすみませんと言うと、気にするなと言われた。

「打ち上げは?」
「こんな状況で行けるわけないだろう」
「そうだよね。みんなと行きたかった」
「ああ。またセッティングしてやる」

大野さんも笑っている。

何度も振り返りながら大野さんが帰っていくと、西日が差し込んだ部屋がやけに静かだった。
テレビをつけ、ボリュームを上げる。
チャンネルを変えてもどれも面白くない。

油断をすると倉庫での光景が蘇ってくる。

だからなるべく考え事をしないようにした。

その日は結局、朝までテレビを見ていた。
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