呆れるくらいに君が恋しい。
彼女は一つ上の先輩。
夏木 彩(なつき あや)。
水泳部の副部長。
真夏の暑い日差しの下、
キラキラ光るプール。
彼女の髪から落ちた雫が
アスファルトの地面に染み込む。
「せーんぱいっ!」
金網から呼ぶと
チラリとこっちを見た先輩は
またお前か。というふうに肩をすくめた。
「何。」
「今日も彩先輩は綺麗ですね。」
「馬鹿?」
そう返す先輩は、俺を見ることもない。
「夏木ー、タオル。」
そう言って先輩に声をかけたのは
佐和田 瞬先輩。
夏木先輩は、はいはい。と
そばにあったタオルを佐和田先輩に投げる。
「せんきゅっ!」
そう言って俺に気づいた佐和田先輩は
「まーた、来たのか。」と笑う。
「来ないと夏木先輩寂しいでしょ?」
冗談で返すと
「なわけないじゃん。」
って即返されるのはちょっとキツい。
「夏木愛されてんなー。」
そう笑う佐和田先輩に
「佐和田のが愛されてんじゃん。」
って返す夏木先輩。
その横顔が少し辛そうで
でもそれに気づいてるのは多分俺だけ。
夏木先輩は佐和田先輩のことが好きで
でも、佐和田先輩には彼女さんがいる。
しかもその彼女さんと
佐和田先輩、夏木先輩は友達で。
誰よりも近くにいて、
誰よりも二人を想ってる分、
きっと、誰よりも辛い。
「せーんぱい、可愛いよ。」
辛そうな横顔に
そう声をかけると
「馬鹿。」
っていつもの表情に戻ることにホッとする。
先輩が苦しんでるとこは見たくない。
俺には相変わらず
目すら合わせてくれないけど。
< 8 / 43 >

この作品をシェア

pagetop