強引ドクターの蜜恋処方箋
8章
翌日。

今日で1週間の実習が終わる。

朝、ナースセンターでお世話になった先輩に挨拶をすると、

「いよいよ今日で一旦終了ね。色々大変だったでしょうけどよくがんばったわ」

そう言って私の今日の計画表を確認してくれた。

先輩の横顔を見つめながら泣きそうだった。

この1週間、1年分の血液を頭に循環させたような気がする。

それくらい毎日集中して、緊張して、乗り切った感があった。

看護学校の同期達も同じだったようで、今日終わったら皆で夜ご飯食べに行こうと約束している。

先輩は、予定表を私に手渡しながら、

「申し訳ないんだけど、午後から511号室に入院してる井阪敬吾くんのケア担当お願いできる?私が緊急手術に入らなくちゃいけなくて。これ、敬吾くんのカルテ。血圧と体温を時間になったら計測お願いします。この子、昨日から容態がよくなくて、できれば気をつけて見てあげてほしいの」

と心配そうな顔で言った。

「はい」

最後に重要な役を引き受けた。最後まで気を緩めないでしっかりしなくちゃ。

私は敬吾くんのカルテを手にとってイスに座る。

井阪敬吾 10歳。

担当医は、峰岸先生と雄馬さんだった。

昨晩、容態の悪い患者の緊急の打合せっていうのは、ひょっとしたらこの敬吾くんのことだったのかもしれない。

敬吾くんは生まれつき体が弱く、この数年入退院を繰り返しているらしい。

一昨日から高熱が続いていて、血液検査の結果も良くなかった。

今朝から新しい抗生剤を投与することになっている。

ふと母が入退院を繰り替えしていたのを思い出し、敬吾くんの状況と重なった。

はやくお熱が下がってよくなりますように・・・。

思わず祈らずにはいられなかった。

「おはよう!午後から緊急オペが入ったから、ここ少し手薄になるかもしれないけどよろしくね」

そう言いながら、元気に入ってきたのは峰岸先生だった。

相変わらずきゅっと後ろに束ねた髪はつやつやしていて、二重の大きな目はキラキラしていた。

とってもきれい。

峰岸先生と目が合う。

あ。

峰岸先生が私の方へつかつかと歩み寄ってきた。

「おはよう。あなた実習生の南川さんだったわね」

「はい」

「午後から敬吾くんの事よろしくね。ちょっと気になる患者さんだから、何かあったらすぐに松井先生呼んで」

・・・松井先生って雄馬さんだよね。

昨晩会ったばかりなのに、その名前を聞いただけでこんなにも恋しい。

峰岸先生はそう言うと、私の肩をポンと叩いて笑顔でセンターを出て行った。

出て行った直後、何人かの噂好きの看護師達が固まっていつものひそひそ話が始まった。

聞きたくなくても耳に入ってくる。

「昨日、敬吾くんの治療の緊急カンファレンス、峰岸先生と松井先生の二人で夜遅くからしてたみたいなんだけど、その会議、朝まで続いてたらしいわよ」

「うそ?まさか2人きりで?」

「そうなの、会議室にこもってるから本当に会議してたんだかぁ」

「嫌だわ!ショック~、松井先生っ」

「だけど、あの二人美男美女だもんねぇ。すごくお似合いだよね」

「そんなこと言わないでっ。でも、峰岸先生って・・・」

そこまで聞くのが精一杯だった。

私と別れた後、2人でずっと会議してたんだ。

・・・朝、まで。

もちろん、会議していただけ。

あんなにも雄馬さんに愛を刻まれてるはずのに、まだ自信がもてないでいる自分がいた。

そんな自分が嫌になる。

両手で頬をパンと叩いて立ち上がった。





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