彼と愛のレベル上げ
想いの行方
目の前には望亜奈さんと今月限定のケーキ。そのケーキを餌に望亜奈さんに時間を作ってもらった。

私の話を聞きながら、そのケーキをおいしそうにつついている。
そして全部話し終えると、驚いた様子もなく、


「とうとう言っちゃったんだ。相良さん」


それって潤兄の気持ちを知ってたってこと?


「あの、まさか望亜奈さん、知ってたんですか?」


そんなことはお構いなしにケーキを食べすすめながら望亜奈さんは続ける。


「あぁ、…ん。まぁね」


まぁねって。
それは潤兄が望亜奈さんに相談したってこと?


「あ、相良さんから聞いたわけじゃないわよ?私がね?そうじゃないかなぁって思ってただけ」

「それなら、望亜奈さん教えてくれれば……」


そこまで言ってから言葉が止まった。
何度となく望亜奈さんから言われてた言葉。


『桃ちゃんがわかんなきゃいいのよ』
『ほんとに桃ちゃん気づいてないの?』

そんな感じだった気がする。


これが、その…意味?


「あー望亜奈さん、……言ってましたね。気付かなかったのは私ですね?」

「まーそれはさ。仕方がないと思うんだよね」

「でも、私。潤兄に色んな事相談したり、引越しまで手伝わせて……」


罪悪感。
そんな言葉だけでは片づけられない。


「…これ、聞いちゃっていいのかな?相良さんいつからって言ってた?」


いつから……って。



あのあと―――



「また潤にぃったら、冗談」


そうだよね?

私がそう言った瞬間、潤兄の腕が緩んだから、閉じ込められていたその中からすり抜けた。

一歩下がって距離をとってから潤兄の顔を見る。


顔を歪ませ……ものすごく傷ついた。
そんな顔をしていた。


咄嗟に私は言ってはいけない事を言ってしまったんだって悟った。


「ほーんと、潤にぃにしておいたらよかったよ」


はははって笑ってその場を和ませようとした。でも、それも逆効果だった。


「…俺、本気だから」


潤兄が小さな声だけど、意志の強い声でつぶやいた。

そして、私が落とした携帯を拾うと目の前に差し出した。


「ほら、これ。悪いけど今日はこのまま帰るな。…送っていけなくてごめん、気をつけて帰れよ」


そう言うと潤兄はそのまま二度と振り返らなかった。


私は渡された携帯を握ったまま、しばらくそこに立ち尽くしていた。
< 116 / 240 >

この作品をシェア

pagetop